onewanのメモ帳

数式が書きたくて始めたブログ。twitter IDは @onewan

素数の因数分解

先日、第20回 日曜数学会(2021年1月24日)で「素数因数分解」と題して発表させて頂きました。

www.slideshare.net

この発表は、一年前の第17回 日曜数学会で発表した「3の素因数分解」の続きのネタになります。

www.nicovideo.jp

実は、この第17回 日曜数学会の後にtsujimotterさんからオイラー素数生成多項式の話などを聞いて2次体に興味を持ち、「素数と2次体の整数論」を勉強する会である「ゆるにじたい」を始めたのでした。 www.kyoritsu-pub.co.jp

twitter.com

ゆるにじたいは、この書籍の行間を埋め、誤りを正し、楽しい四方山話も交えつつ、1年間ほぼ毎週水曜日に3時間のペースで進めてきました。

210ページあった本も残すところ10ページほどとなり、嬉しい反面、寂しい気持ちがありますね。

素因数分解ビンゴ

素因数分解ビンゴのLINE botです。

以下のQRコードをキャプチャして、QRを利用したLINEの友達追加で選んでください。

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素因数分解ビンゴ

使い方は3つだけ

  • ①スタンプを送る: ビンゴカードを生成

  • ②f以外の文字を送る: 重複を含んで100以下の3つの素数の積を返す

  • ③fを送る: 上記②に加えて、因数の3数も表示する

サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」

この記事は、「日曜数学Advent Calendar 2020」の11日目の記事です。

adventar.org

昨日10日目の記事はtriprodさんの「アイゼンシュタインによる平方剰余相互法則の証明について」でした。

mathlog.info

はじめに

 表題のとおり、サイモン・シン(Simon Singh)著の「フェルマーの最終定理」を読んだのでその紹介をしたいと思います。

フェルマーの最終定理

 フェルマーの最終定理とは、フェルマーディオファントスの「算術」の余白に記した以下の予想*1を指します。  X^{n} + Y^{n} =Z^{n} , 3 \le n \in \mathbb{Z}を満たす正の整数の組(X,Y,Z)は存在しない。

 ここに書かれている主張は極めて単純明快で、中学生でも理解できます。しかしながら、この問題が約350年もの間誰にも解かれず、現代数学の粋を集めて1994年にアンドリュー・ワイルズによって証明されました。

この本を読んだ理由

 私がフェルマーの最終定理を知ったのは中学の頃でした。学校の図書室できまぐれに手に取った数学読み物系の書籍で出会いました*2

 その本には、ギリシアの三大作図問題(円積問題、立方体倍積問題、角の三等分問題)と共にフェルマーの最終定理が載っており、前者は定規とコンパスで作図できないということが書いてあり、後者は350年ものあいだ誰にも証明されていないと書いてありました*3。実は驚くべきことに、350年解かれていなかったフェルマーの最終定理は、この本を読んだ時点でアンドリュー・ワイルズ(Andrew John Wiles)によって証明されていたのです。

 その後、いつのタイミングかは覚えていませんが、サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」が日本語で出版されていることは知っていましたが、ずっと読むタイミングを逸していました。ちなみに、上述のフェルマーの最終定理を知った丁度その年にイギリスで原著が出版されていたということを最近になって知りました*4

 月日は流れ、最近になってまたフェルマーの最終定理に触れる機会がありました。それは加藤文元先生が講師を務められた「ロマ数ゼミ フェルマーの最終定理の風景」です。 romanticmathnight.org

 このロマ数ゼミでは、具体的な数学の解説と、証明のover viewをご講義いただきました。この中で、「谷山・志村予想」を解決することでフェルマーの最終定理が示されてたことを知りました。「谷山・志村予想」とは、「すべての \mathbb{Q}上の楕円曲線はモジュラーである」ということです。ここで、 \mathbb{Q}上の楕円曲線というものが出てくる訳です。

 ここで  \mathbb{Q}上の楕円曲線というものに俄然興味が沸いてきました。

 その後、さらに「ロマ数トレラン 楕円曲線入門」というゼミ形式のセミナーが立ち上がり、参加することにしました。 romanticmathnight.org

 こちらは、Silverman and Tateの楕円曲線論入門をゼミ形式で進めるというもので、かなり具体的に計算をすることで、楕円曲線について知ることが出来ました。

 余談ですが、このゼミの中で、3次曲線に対して、有限位数の有理点をすべて求めるという問題が当該書籍の2.12にあるのですが、手計算するとべらぼうな計算量になるので、Pythonプログラムを作ってみました。 github.com  例えば、 y^{2} = x^{3} + 4 xの有理点を求めたければ、"0 4 0"と入力すると以下のような出力を得られます。

f:id:sosuu-daifugoh:20201209031831p:plain
計算例

 上記のような理由で、フェルマーの最終定理の証明を理解したくて、代数学の基礎から勉強しているのですが、もう一度、フェルマーの最終定理に至った歴史を振り返りたいと思ったので、最近敬遠しがちだった数学読み物も読んでみようと思い、表題のとおりサイモン・シンの「フェルマーの最終定理」を読むことにしました。

サイモン・シンの「フェルマーの最終定理

概要

 本書を読む前は、フェルマーの最終定理が解かれるまでの経緯だけを詰め込んだものだと勝手に思っていたのですが、そんなことはなくて、なぜこの問題を考えるのか、どのようなモチベーションがあるのかを説明するために、数学の歴史を説明してくれています。すなわち、ピタゴラスの時代までさかのぼり、さらにフェルマーがこの予想を残すまでと、それを解くために様々な人がチャレンジしては新しい数学を生み出して行った様子が分かりやすく叙述されています。

 本書は、約350年間誰にも解かれていなかった予想を1994年にアンドリュー・ワイルズが証明したことで、BBCテレビのドキュメンタリー番組『ホライズン』で特集されることになったことがきっかけで、サイモン・シンが番組制作の過程で知り得たことと、会話と、フェルマーの最終定理が解かれるまでの様々な歴史を本にまとめたというものになっています。

 本書の流れとしては大まかに以下のとおりでした。 ①冒頭部:著者がワイルズにインタビューを行う様子が描かれている。 ②背景:フェルマーの最終定理が生まれるまでの数学の歴史を数学の創成期から紹介している。 ③本論:フェルマーの最終定理自身の話。谷山・志村予想を解決出来ればフェルマーの最終定理が解決するという辺りの話。 ④エピローグ:フェルマーの最終定理以外の未解決問題の紹介や、数論以外の数学の話を紹介している。

おもしろかったところ

 数学のかなり多くの分野の話題に触れているので、まったく数学に親しくない人でも色んなことを知ることが出来る特盛の書籍になっています。たとえば、ドイツの暗号機エニグマゲーデル不完全性定理、四彩色問題などです。  文量が多く、面白い箇所が多すぎるので、ここからは列挙形式で書いていきます。ここで、””に囲まれた部分は新潮社「フェルマーの最終定理」(新潮社、著:サイモン・シン、訳:青木薫)から引用した文章であることを表しています。

www.shinchosha.co.jp

ピュタゴラスは、生徒のピュタゴラスが授業に出るたびにオボロース銀貨を三枚与えた”

 生徒の名前ピュタゴラスというのは、まあ置いといて、話を聞いてもらうためにお金を払ったというのは、なんだか日曜数学会の講演者がお金を払って講演を聞いて貰っている構図に似ているなあと思ったり。関西日曜数学友の会でも、先に講演者枠が埋まるので、数学好きは昔からお金を払って話を聞いて貰っていた訳です。2600年もの歴史がある由緒正しい方法だったと言ったら言い過ぎですかね。

フェルマーが特定の数学者から影響を受けたという記録はない。そのかわりに彼を導いたのが『算術』だった。『算術』はディオファントスの時代のままに、問題とその解法を通して数論を語ろうとしていた。”

 このディオファントスの『算術』のフランス人のバシェによるラテン語訳に余白が多く、その余白を利用してフェルマーは様々なコメントを書いていたという。それは確かにフェルマーの最終定理の証明を書くには余白が小さ過ぎるというものですね。この本を読んで、ますます『算術』を読んでみたくなりました。どこかにフェルマー追記版の『算術』の写しがあれば、コレクションとして欲しいですね。

”E・T・ベルは『最後の問題』のなかで、「おそらく文明はフェルマーの最終定理が解かれる前に滅びるだろう」と書いた"

 なんとか滅びる前に解けましたね。良かった良かった。

"『悪魔とサイモン・フラッグ』のなかで、悪魔はサイモン・フラッグに問題を出すように言う。二十四時間以内にそれに答えることができたら、悪魔はサイモンの魂をもらう。答えられなければ、悪魔がサイモンに十万ドルを支払うというのだ。そこでサイモンが出したのがこの問題だった。"

 未解決問題を悪魔にぶつけるというのは良いアイデアですね。さらに、この後の悪魔の捨て台詞が数学用語だらけで実におもしろいので、機会があれば、この作品自体も読んでみたいです。

"虚数という概念は、現実世界にはなかなか対応物を見つけることができない。十七世紀ドイツの数学者ゴットフリート・ライプニッツは、そんな虚数の奇妙な性質をいとも優美に表現した。「虚数とは、神なる聖霊の頼もしき拠り所にして、存在と非存在の相半ばするものなり」"

 17世紀にも虚数の対応物を求めるような話があって、400年くらい経ったのに、まだ同じような話題があるというのも面白いですね。ライプニッツみたいに、神なる聖霊の拠り所という解釈にしてしまうのも一つの手なんですかね。知らんけど。

"画家や詩人の作るパターンが美しいように、数学者の作るパターンも美しくなければならない。色や言葉と同様に、数学の概念は調和していなければならない。美こそは第一の試金石である。醜い数学に永住の地はない。 G.H.ハーディ"

 ラマヌジャンを見出したハーディ。こういう言を残していたとは知らなかったけれど、自分も気持ち的にはこういう感覚で数学を見てるなあと思う。

"一見すると関係のなさそうなテーマ同士が結びつくことは、どんな学問分野においてもそうであるように、数学においても建設的な意義を持っている。"

 数学以外の分野で、元々別々に考えられていた電気と磁気が実は深く関係するということが後に分かったという話が書いてあり、そういう説明をすれば異なるテーマ同士が結びつく重要性を分かり易く説明できるのだなあと感心しました。

おわりに

 つらつらと面白かった箇所を書いていきましたが、まだまだ面白い話はこの程度ではないし、あまり一般的には理解されにくい「数学を勉強する・研究する」ことのモチベーションを、さまざまな分野の数学を交え、歴史を紐解きながら解説してくれる数学読み物だと思います。

 この本は、普段、数学と関わりのない人にも十二分に楽しんで読んで貰える本だと確信しています。ぜひ、周りの方にもおすすめしてみてください。

 ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。

 それでは、おやすみなさい。

*1:フェルマーは、「証明を思いついたがそれを書くには余白が小さ過ぎる」とだけ書き残していたため、フェルマー自身が証明したものではないし、おそらく証明出来ていなかっただろうということで、定理ではなくフェルマー予想と言った方が良いという説があります。

*2:私は本を全く読まないタイプの子供だったので、ものすごい偶然でした。

*3:この本の題名は覚えていないので、心当たりのある方はご教示いただけると幸いです。

*4:こちらがサイモン・シンの原著「FERMAT'S LAST THEOREM」です。https://simonsingh.net/books/fermats-last-theorem/the-book/

非正則素数祭

非正則素数

非正則素数歳になったので、非正則素数祭を始めます。

いえーい。

さて、非正則素数とは何かから復習していきましょう。

非正則素数の定義

非正則素数について、引用文献[1]の8.11 円分体の整数環の中に説明がありました。

[1]のp293を引用させて頂きますと、以下の通りです。

 \mathbb{Q} (\zeta_p ) の類数が  p で割れない素数を正則素数,割れる素数を非正則素数という.

円分体 \mathbb{Q} (\zeta_p ) の類数が pで割れる素数を非正則素数というわけです。

何で非正則素数って言うの?

いきなり非正則素数と言われても、何が非正則(イレギュラー)なんじゃいワレェという話ですね。 それについても、[1]のp289の定理を引用して考えて行きます。

 pを奇素数 \mathbb{Q} (\zeta_p ) の類数が  p で割れないとする.このとき,方程式 x^{p} + y^{p} = z^{p}, xyz  \neq 0の整数解 (x,y,z) x,y,z pと互いに素であるものは存在しない.

みなさん馴染み深い方程式が出てきたと思います。世にいうフェルマーの最終定理(以下、FLT)*1です。この定理は正則素数ならば成り立つ。さらに xyz pで割り切れない場合にFLTが成り立つことを示せば、正則素数についてはFLTが成立します。これはクンマーが1850年に示したそうです。*2そういう意味で、当時この定理を用いてFLTを示せていなかった素数が非正則素数ということですかね(ここらへんの解釈や表現がおかしければご指摘頂けると助かります)。

円分体 \mathbb{Q} (\zeta_p ) の類数を  p で割ってみる

それでは、円分体の類数とpを見てみましょう。

ja.wikipedia.org

円分体の類数計算大変過ぎでは!?

これを計算するのはちょっと大変過ぎます。ということで、毎度お馴染み「オンライン整数列大辞典」から値を拝借します。こいつが正の整数 nと円分体 \mathbb{Q} (\zeta_n ) の類数の組を羅列したものです。*3

oeis.org

1から36までずっと \mathbb{Q} (\zeta_p )< pになっていますが、 p = 37 \mathbb{Q} (\zeta_p ) = p になっていますので、これが最小の非正則素数になります。

割り算祭り

ここからは楽しい算数のお時間です。

さらに見ていくと、47、、、は695を割り切れませんね。+10した705なら割り切れたのに惜しい!次の候補は53ですが、これも4889/53=92あまり13なので割り切れない。

次は59に対して41241。ここで復習ですが「整数xで整数yを割り切れるとき、任意の整数cに対して、y+cx, y-cxのいずれもxで割り切れる」ので、41241+59 = 41300と割られる数を簡単にしてやると、413=59*7なので、これは59で割れることになります。

次の61と76301ですが、これも+10すると割り切れるので惜しいですが割り切れません。

次の67と853513ですが、これも67を足して853580にします。これは、、、諦めて素直に計算すると85358/67=1274と割り切れます。

というわけで、37, 59, 67は非正則素数なわけですね。

ベルヌーイ数を用いて計算しよう

ここでは類数の計算をせずに非正則素数であるか否かを判定する方法を考えます。

[1]のp293を引用させて頂きますと、以下の通りです。

 p が正則素数であるかどうかは,ベルヌーイ数によって判定できることが知られている.(中略) \begin{align} m \equiv n \not \equiv 0 \mod p-1 なら \frac{B_m}{m} \equiv \frac{B_n}{n} \mod p \end{align}

クンマーは pが非正則素数であることと, p B_2 , B_4 , B_6 , \cdots B_{p-3} のどれかの分子を割ることが同値であることを,上の合同式を使って証明している."

ベルヌーイ数に関しては、以下のように漸化式で書けるので、類数を計算するよりは簡単に求まります。ここで Cは二項係数を表しています。  B_0 = 1, B_n = - \frac{1}{n+1} \sum_{k=0}^{n-1}  _{n+1} C_k B_k

いや、いうて大変やん

ということで、またもや「オンライン整数列大辞典」からベルヌーイ数の分子の値を拝借します。

oeis.org

今度はこいつらを素因数分解してやります。

手計算でやっても良いんですが、ここはPythonでサクッと計算しました。

f:id:sosuu-daifugoh:20201121043217p:plain
Bernoulli_number

37がなかなか出てこない! B_{37-3=34}までに出てくる必要があるのだが、かろうじて  B_{32} の分子で出てくる。結構ぎりぎりですね。この方法で最初に見つかる非正則素数を見てみると、5は B_{p-3}までに出て来ていないのでダメで、なんと691なんですね。

祭りのあと

今日は非正則素数歳になったということで、非正則素数について調べてみました。

非正則素数については、日曜数学者のtsujimotterさんがブログで取り上げていらっしゃるので、そちらもご覧ください。

tsujimotter.hatenablog.com

なんと、非正則素数かどうかを判定するツールも提供されています。便利。

tsujimotter.info

なお、私の年齢については明記いたしません。691歳ではないことだけは確かです。

おやすみなさい。

引用文献

[1] 整数論1初等整数論からp進数へ , 雪江明彦 著, 日本評論社 www.nippyo.co.jp

*1:[1]ではフェルマー予想(テイラー‐ワイルスの定理)と記載されています。フェルマーは証明を与えていないので、あくまで予想ということですね。

*2:Regular prime - Wikipedia 参照

*3:ちなみに、素数だけに限定した数列はこちら A055513 - OEIS

数学デイズ 大阪編 ~ラマヌジャンの数式~ に記載した証明の修正

昨年「数学デイズ 大阪編」に寄稿させて頂いた "ラマヌジャンの数式"の証明の一部が間違っていた事に気付いたので、正誤表を書こうと思っていたのですが、1年近く経ってしまいました。

最近blogも書いていなかったので、ここに正誤表を記します。

ページ 訂正箇所
P135 下から6行目  \frac{\sqrt{2}}{2} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(\frac{1}{2})_{n}^{3}}{(1)_{n}^{3}} (4n+1)(-1)^{n}   \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(\frac{1}{2})_{n}^{3}}{(1)_{n}^{3}} (4n+1)(-1)^{n}
P135 下から4行目  s=\frac{1}{4}  s=\frac{1}{2}
P135 下から1行目  = \frac{\sqrt{2}}{\pi} = \frac{2}{\pi}
P136 上から1行目 つまり答えは、 \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(\frac{1}{2})_{n}^{3}}{(1)_{n}^{3}} (4n+1)(-1)^{n} = \frac{2}{\pi} となる。 となる。(Q.E.D

今年はいろいろ数学の勉強を始めたので、また何か書きたいですね。

統計検定で学ぶ線形代数

この記事は、「日曜数学Advent Calendar 2019」の15日目の記事です。

adventar.org

昨日14日目の記事は龍孫江さんの「あるUFD上の形式冪級数環について」でした。

blog.livedoor.jp

本文

今年は、11月に受けた統計検定1級の問題を紹介してみようかと思います。

統計の基礎的な知識(期待値と分散の計算方法のみ)は必要なものの、「そらあんた線形代数ですやん」と言いそうになる問題がありました。

以下の「経緯」については、自分が統計に手を染めてしまった経緯を書いているだけなので、特に読まなくて大丈夫です。

経緯

昨年度は、Deep Learningに手を出し、東大の松尾研の講座を修了しました。 deeplearning.jp

個人的な最終目標は、「特許請求の範囲に基づく権利範囲の正確な認識を機械的に行う」という感じなのですが、自然言語の意味理解に迫る話なので、まあそれは難し過ぎるということで保留にしています。大量の連続量データの雑なクラスタリングにはDeep Learningが向いているのですが、特許文献のような文書形式も手続きもルール化されたものを扱うなら、まずは統計解析から始めたらええやんかということで、今年の9月頃から統計に手を染め始めました。

統計の勉強をどのように行うのか迷いましたが、根っからの受験屋タイプの自分には問題を解いて理解するのが一番向いているということで、小寺平治の数理統計や、すうがくぶんかさんの個人指導で統計検定1級対策の問題を解いたりしていました。

www.kyoritsu-pub.co.jp

https://sugakubunka.com/toukei-kentei_seminar-1/

まあ、そんなことより、今年の問題を見ていきましょう。

2019年 統計検定1級 統計応用 理工学 第4問

問題については、もう少ししたら以下の公式サイトにアップされると思います。

www.toukei-kentei.jp

時系列データ ( \ldots , X_{-1} , X_0 , X_1 , \ldots , X_n , \ldots ) は一次の自己回帰( AR(1))モデル

 X_t = \phi X_{t-1} + \epsilon_t ( t= \ldots , -1, 0. 1, \ldots ) (1)
に従うとする。ここで \epsilon_t は互いに独立に N ( 0, \sigma ^2 )に従う確率変動項であり、定常性の条件 | \phi | < 1を仮定する。 (X_1, \ldots , X_n) につき以下の各問に答えよ。

問題[1]

モデル(1)における (X_1, \ldots , X_n) の自己共分散行列 T= { \tau_{ij} }の各成分は

 \tau_{i j} = \frac{\sigma ^2}{1-\phi ^2} \phi^{|i-j|}  (i,j=1, \ldots , n)

で与えられ、自己相関行列は R={ \rho_{ij}  } = { \phi^{|i-j|} }となることを示せ

[1]の回答

(1)の期待値をとると、 \epsilon_t ~ N (0, \sigma^2)であることより、

 E [ X_t ] = E [ \phi X_{t-1} ] + E [ \epsilon_t ] = \phi E [ X_{t-1} ] となるが、 \phi \ne 1 なので E [ X_t ] = E [ X_{t-1} ] = 0である。

ところで、  E [ X_t^2 ] = E [ \phi^2 X_{t-1}^2 + 2 \phi X_{t-1} \epsilon_t + \epsilon_t^2 ] = \phi E [X_{t-1}^2 ] + \sigma^2なので、 E [ X_t^2 ] = E [ X_{t-1}^2 ] = Vとおくと、 V = \phi^2 V + \sigma^2となり、 V= \frac{\sigma^2}{1-\phi^2}となる。

ここで、 i \le jのとき、

 \tau_{ij} = E[ X_i X_j ] - E[ X_i ] E [ X_j ]= E[ X_i X_j ] となり、ここで(1)より、
 = E[ X_i  ( \phi X_{j-1} + \epsilon_t ] = \phi E [ X_i X_{j-1}] + E [ X_i \epsilon_t ]= \phi E [ X_i X_{j-1}] = \phi^{j-i} E [ X_i^2] = \frac{\sigma^2}{1-\phi^2} \phi^{j-i} となる。

さらに、i>jも同様に、 \tau_{ij} =  \frac{\sigma^2}{1-\phi^2} \phi^{i-j} となる。

よって、 \tau_{ij} =  \frac{\sigma^2}{1-\phi^2} \phi^{|i-j|} であり、 \rho_{ij} = \frac{\tau_{ij}}{\sqrt{V} \sqrt{V}}=\phi^{|i-j|}である。

問題[2]

n次対称行列 A = \{ a_{ij} \}

{\displaystyle 
a_{ij} = \begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{cc}
1 & (i=j=1,i=j=n) \\
 1+\phi^2 & (i=j=2, \ldots , n-1) \\
 - \phi & (|i-j|=1) \\
 0 & (|i-j| \ge 2)
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
}

とする。たとえば n=4では

{\displaystyle 
  A =
    \begin{pmatrix}
      1 & - \phi & 0 & 0\\
     - \phi & 1+ \phi^2 & - \phi & 0\\
      0 & - \phi & 1+ \phi^2 & - \phi \\
      0 & 0 & - \phi & 1
    \end{pmatrix}
}

である。一般のnおよび上問[1]の行列Tに対し、 \frac{1}{\sigma^2} T逆行列 Aで与えられることを示せ。また、A行列式 |A|およびR行列式|R|の値を求めよ。

[2]の回答

 \frac{1}{\sigma^2} T Aij成分を e_{ij}とかくと、 e_{ij} = \displaystyle \sum_{k=1}^n  \frac{1}{1-\phi^2} \phi^{|i-k|} a_{kj} である。

これを計算すると、対角要素が1、それ以外が0となるので確かめて欲しい。(割愛)

{\displaystyle 
  A =
    \begin{pmatrix}
      1 & - \phi & 0 & \cdots & 0& 0\\
     - \phi & 1+ \phi^2 & - \phi & \cdots & 0& 0\\
      0 & - \phi & 1+ \phi^2 & - \phi &\cdots & 0\\
      \  & \  & \ddots & \  & \  & \  \\
      0 & 0 & \cdots &- \phi & 1+ \phi^2 & - \phi \\
      0 & 0 & \cdots & 0 &  - \phi & 1
    \end{pmatrix}
}

Ak行目(k=1,2,\cdots , n-1)\phi倍してk+1行目に足すということをk=1から順番に行った行列A'は以下のようになる。

{\displaystyle 
A'=
    \begin{pmatrix}
      1 & - \phi & 0 & \cdots & 0& 0\\
     0 & 1 & - \phi & \cdots & 0& 0\\
      0 & 0 & 1 & - \phi &\cdots & 0\\
      \  & \  & \ddots & \  & \  & \  \\
      0 & 0 & \cdots & 0 & 1 & - \phi \\
      0 & 0 & \cdots & 0 &  0 & 1 - \phi^2
    \end{pmatrix}
}

A'h列目(h=1,2,\cdots , n-1)\phi倍してh+1列目に足すということをh=1から順番に行った行列A''は以下のようになる。

{\displaystyle 
A''=
    \begin{pmatrix}
      1 & 0 & 0 & \cdots & 0& 0\\
     0 & 1 & 0& \cdots & 0& 0\\
      0 & 0 & 1 & 0 &\cdots & 0\\
      \  & \  & \ddots & \  & \  & \  \\
      0 & 0 & \cdots & 0 & 1 &0 \\
      0 & 0 & \cdots & 0 &  0 & 1 - \phi^2
    \end{pmatrix}
}

上記の操作によって行列式は不変なので、 det(A)=det(A')=det(A'')=1-\phi^2となる。

 
    \begin{eqnarray}
1 &=& det(I_n)=det(\frac{1}{\sigma^2}TA) = det(\frac{1}{\sigma^2}T)det(A)=(1-\phi^2)det(\frac{1}{\sigma^2}T) \\
&=&(1-\phi^2)det(\frac{(1-\phi^2)}{\sigma^2}T)/(1-\phi^2)^n =(1-\phi^2)det(R)/(1-\phi^2)^n \\
&=&det(R)/(1-\phi^2)^{n-1}
    \end{eqnarray}

となるので、 det(R)=  (1 - \phi^2)^{n-1}

問題[3]

 {\bf  x}=(x_1, \ldots , x_n)^T n次ベクトルとしたとき、問題[2]の行列Aに関する2次形式 Q_A = {\bf x}^T A {\bf x} x_1 , \ldots , x_nを用いて書き下し、 |\phi|<1のとき、 Q_Aはすべての {\bf x} \ne {\bf 0}に対して、常に正であること、すなわちAは正定値であることを示せ。

[3]の回答

 
    \begin{eqnarray}
 {\bf x}^T A {\bf x} &=& x_1^2+x_n^2+(1+\phi^2) \sum_{k=2}^{n-1} x_k^2 - 2 \phi \sum_{k=1}^{n-1} x_k x_{k+1} \\
 &=& \sum_{k=1}^{n-1} ((x_k - \phi x_{k+1})^2 + (1+ \phi^2) x_{k+1}^2 )\\
 &>&0
    \end{eqnarray}

問題[4]

問題[2]の行列A(1,1)要素の1のみを \phi^2に変えた行列をBとする。一般のnについて、Bに関する2次形式 Q_B = {\bf x}^T B {\bf x}はすべての{\bf x}に対して\phiの値によらず非負となること、すなわちBは非負定値であることを示せ。また、 Q_B=0となる {\bf x}(ただし、 {\bf x} \ne {\bf 0}はどのようなベクトルであるか。

[4]の回答

 
    \begin{eqnarray}
 {\bf x}^T B {\bf x} &=& \phi^2 x_1^2+x_n^2+(1+\phi^2) \sum_{k=2}^{n-1} x_k^2 - 2 \phi \sum_{k=1}^{n-1} x_k x_{k+1} \\
 &=& \sum_{k=1}^{n-1} (\phi x_k -  x_{k+1})^2  \\
 &\ge&0
    \end{eqnarray}

等号成立は、 k=1, \ldots , n-1となる任意のkに対して、 x_{k+1}= \phi x_kであるとき。

あとがき

今回は最近手を染めている統計検定に現れた線形代数について紹介し、実際に問題を解くという形でご紹介いたしました。

日曜数学と日曜数学アドベントカレンダー2019は、まだまだ続きますので引き続きお楽しみに!

マスパーティ開催報告

2019年10月19日、20日に30時間半ぶっとおしの数学イベント、マスパーティが開催され、スタッフとして参加しました。

mathparty.localinfo.jp

ということで、ひさびさのブログ更新です。

発端

今年MathPowerが開催されない事が決まったのが、このイベント開催のきっかけでした。

7月頃には、色んな方々がMathPowerが開催されないことを憂い、私もこのような呟きをし、数学デーでキグロさんやtsujimotterさんなど同じ思いの方々と「今年MathPowerやらんなら、有志で代替イベントやりたいよねえ」的な話が展開され、色んな人を巻き込みながら協賛イベントが増え、実現することになりました。

準備

7月辺りから、準備にも相当な時間を費やし、構想・企画・会場決めやらなんやらがオフライン・オンラインで行われておりました。そういった話は、今回は割愛します。また後日、スタッフのどなたかが書くか、もしくは書かれないかだと思われます。

ここからは、当日の私のtwitterの呟きをベースにご紹介します。

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私の担当は会場の設営だったので、まずは上の状態から「数学カフェ」の聴講形式にするために、机をどかして椅子だけにすることから始まりました。下見の際には3人だけで移動したので、30分も掛かりましたが、その場に居たスタッフ総出で並び替えたため、10分くらいで終わって助かりました。

本番

開会式

このログマークの後ろには、数が書かれているのですが、その数が何を意味するのかは30時間半後に明らかにされました。

イベントの準備をしているときに、誕生日ケーキが届きました。これにはスタッフのテンションが爆上がりでした。

数学カフェ

数学カフェは、千葉先生の「重み付き射影空間と可積分系」に関する発表でした。

以前、数学デーin大阪の有志で作った本「数学デイズ大阪編」に寄稿させて頂いた「ラマヌジャンの数式」の中で、ハーディの論文に記載された証明を、その行間を埋める形で紹介したのですが、その証明がオイラー作用素と超幾何級数に関するもので、そこで用いられた数式がどのような理論から降って来たものなのかを知りたかったという事があり、上のツイートを呟いたのでした。

また、私は制御理論が専門だったので、離散事象系をやっていたとはいえ、微分方程式にはそこそこ興味があります。さらに、いま統計学を勉強しているので超幾何関数にも興味がありますので、この辺の話は惹かれるものがありますね。

途中で、何とトレンド2位になったという情報が入り、一同驚愕。

数学デー

マスパーティの休憩時間は数学デーにするということで、数学デーの紹介が始まりました。

第16回 日曜数学会

今回の日曜数学会には、我々が主催する関西日曜数学友の会も協賛ということで、関西枠を3枠頂きました。私も12番目に登壇して、関西の数学イベント事情を紹介し、あとのお二方に繋ぎました。

www.slideshare.net

関西枠としてご参加頂いた宇佐見さんの発表は、以下で公開されており、様々な方から興味深いという反応があったようです。遠いところお越しいただいた宇佐見さんに多謝。

トリは、関西枠で松森さん。球面上の三角形ということで、平面上ではなく、球面上に三角形を描いたら、内角の和はどうなるのかなど、とても興味深く面白い内容でした。

数学ラジオリレー

数学ラジオリレーは、様々な方々がラジオ形式で発表をするという形式で、私は暗黒通信団さんのラジオリレーを見ていました。

ここで、いま私も受講している、和から株式会社の「フェルマーの最終定理の風景」の授業でマスパーティの様子を観られていたことが発覚。タイミング的に、私の拙い発表は観られていないはず。

素数大富豪大会

昨年のMathPower杯では、奇跡の勝利を果たしてベスト8入りしたので、今回は大会主催者、兼ディフェンディングチャンピオンの もりしー さんから挑戦状を受け取り意気揚々と参戦。

今回もメルセンヌ素数(131071, 524287)を出す事を表の目標、3の19乗(1162261467)を出す事を裏の目標として初戦に臨みました。

・・・

乾杯!

もとい、完敗。

ししとうさん、めっちゃ強い。

その後、トーナメントを勝ち進み、なんと素数王カステラさんにも勝ったと知り、来年のリベンジを心に秘めるのであった。もはや、五枚出し絵柄くらいは全部覚えておかんと勝てんのでは。。。素数大富豪は、数年でドラ◯ンボールばりのインフレっぷりですよ。

一時帰宅

去年のMathPowerでは体調不良で、進行に迷惑を掛けるという大ポカをやらかしているので、今年は素直に帰宅。

そして、昼の設営から復活。

数学イベント主催者座談会

ここでは、関西日曜数学友の会の主催者ということで登壇。主に以下のようなことを紹介。

①イベントづくりのノウハウ
主催する仲間を集めること。一人だとやることが多過ぎてパンクします。少なくとも3人以上集めると良いです。特に、運営&宣伝係、機材係、会場確保係を決めておくとやりやすいです。

②イベントをやってみて良かったと思う事
- 関西にも一般の数学好きが一定数居ることが分かったこと。自分が学生の頃には、ここまでSNSも発達していなかったので、数学好きがどのくらい居るのかは分かっていなかったが、イベントを開催した感覚的にはそれなりに居ると推測しています。 - 名刺代わりになる。他人に自分がどういう人間か説明するときに、めっちゃ便利。

③数学イベントを主催するモチベーション
関東では趣味数学のイベントやコミュニティが充実しているが、関西は関東ほど充実していないので、関西にもそういう場を作りたいというのがモチベーションです。

個人的な意見としては、趣味でやっているのでイベントをどんどん大きくしたいという意思はほぼ無くて、我々はこんな感じで楽しくイベントを主催しているので、関西を始め色んな地域で、みなさんも同じように気軽にイベントを主催してみてはいかがでしょうか、ということが伝えたいことです。

ロマ数プライムゼータ

そして、最後のイベントは「ロマンティック数学ナイト プライム @ゼータ」

これは関西人としてはツッコミを入れずには居られませんでした。

相変わらず、tsujimotterさんのゼータ愛がすごい。

平仮名の「ち」と「\zeta」って似てますね。

今回のペガマスの問題は明らかに未解決問題臭がしていましたが、やはり製作者はせきゅーんさんで、未解決問題でした。

最後はタカタ先生のζ函数ネタ。わざわざロマ数プライムゼータのためだけに新ネタを仕上げてくるタカタ先生に感動した!

終了後

そういえば、バッヂに記載された数については、生放送終了後に現地で小学生が何の数かを言い当てるというイベントが発生しました。すごい小学生だな。

その後、作者の\zetaWalkerさんから以下のように元ネタについてツイートがありました。

謝辞

今回、多くの方々がスタッフとして参加し、大規模なイベントになった上で実現出来たのは、参加いただいた皆さま、全スタッフの協力と、主催のtsujimotterさん、キグロさんが情熱をもって引っ張ってくれたお陰だと思っています。本当にありがとうございました。